本当は今ごろ、新幹線を運転しているはずだった。
金子雄基さん(36)の人生は14年前のあの日、大きく変わった。
2008年5月。大学4年生だった金子さんは就職活動の末、意中の鉄道会社の内定を射止め、静岡県内のホテルで1泊2日の内定者合宿に臨んでいた。
2日目の朝、起き抜けの金子さんの目に飛び込んできたのがテレビニュースの「サザン、活動休止」の文字。
デビュー30周年のサザンオールスターズが翌年から活動を休止とするという。頭が真っ白になり、その後の研修は上の空だった。
茅ケ崎を歩き「いつかこんな場所に」
「本当にこのままでいいのか、俺」
埼玉県草加市出身。大学1年生のときに知り合った彼女がサザンの大ファンだったことをきっかけに、自身ものめり込んだ。
全国のライブはもちろん、デートでサザンの曲を聴きながら、歌詞に登場する各地を訪れた。桑田佳祐さんの出身地・神奈川県茅ケ崎市は細かい路地裏まで歩き回った。
ランニングや自転車で行ける距離に海があり、えぼし岩や江の島、富士山を望む絶景がある。そして、素朴な商店街や気さくな人々……。
いつかこんな場所で暮らしたい。漠然と「老後は茅ケ崎」という人生設計を立てていた。
でも「老後」なんて言っている場合じゃない。当時はサザンの活動再開のめども立たず、「このまま解散か」ともうわさされた。
サザンがあるうちに、サザンを聴きながら茅ケ崎で暮らしたい。だったら、「今」しかない。
「好きな街に関わり、よくしたい」と訴えた
研修の帰りの電車から彼女に…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル